いまの時代では、「がんの末期で血圧が下がった時に、たくさんの昇圧剤、強心剤を使ったなんて、なんと無駄な治療をしたものだ」と嘲笑されます。しかし、告知をしていない、患者本人には最後の最後まで死を隠す当時の医療においては当然の、家族にとっては納得のいく治療だったと思うのです。当時、ほとんどの患者は真実を言われなくとも医師を信頼していましたし、われわれ医師も患者とのコミュニケーションは良好だったと思うのです。
あれから30年がたって、いま簡単に「1カ月の命」と言われて、本当に患者は大丈夫なのでしょうか? 人の“こころ”はそんなに進化したのでしょうか? 自身の胸腺がんと闘ったある医師は「人間の寿命は決められているかもしれないが、寿命なんて知らずに生きていけるほうがいい。たとえ交通事故に遭って明日死ぬにしても、自分の寿命をカウントダウンしなければならない人生はあまりにも過酷だ」とおっしゃっています。
がんと向き合い生きていく