がんと向き合い生きていく

思いもよらない些細な出来事が患者の沈んだ気持ちを変える

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 そんなBさんを救ったのが庭に咲いていたコスモスでした。ある日、台風が来てコスモスはすべてなぎ倒されてしまいました。Bさんは手入れする気にもなれず、そのまま放っておいたそうです。

「しかし数日後、倒れたコスモスの先端が再び太陽に向かって垂直に伸び、花を咲かせたのです。そんなコスモスを見ていたら、『もしかしたら自分も治るかもしれない』という思いが胸をよぎりました」

 また、化学療法で髪の毛がごっそり抜けた時は、雨上がりに山にかかった2つの虹を見て、「悩んでいてもしょうがないのかな」と思ったといいます。

 治療を続けている間、家族から「元気出して」とか「頑張って!」という言葉をかけられると、「あなたみたいな元気な人に私の苦しみが分かるものですか」と言い返して泣いたこともあったそうです。「しっかりしないといけない」「家族に申し訳ない」と思いながら、かえってますます孤独になり、つらくなったといいます。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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