以前、私が担当医だった胸腺がんと闘った患者(外科医師)は、骨転移がなかったことを知らされた時の喜びを、後に奥さんが出版された「戦士に敬礼!」(斎藤菜々著 悠飛社)の中でこう記しています。
「K病院に着いた彼(F)は、偶然、エスカレーターの前でTS先生に会ったそうです。
『F先生、骨転移はないよ。手術できる、できるよ』
TS先生は彼の顔を見るとすぐに声をかけてくださったとのことです。
『涙が出るほどうれしかったよ』
彼はすぐに私に電話をくれましたが、その声は涙声でした。この経験がよほど心に残ったのでしょう。
『職場に戻ったら結果を聞きに来た患者さんには1分でも1秒でも早く結果を伝えてあげよう。ドアを開けて椅子に座る前に〈大丈夫でしたよ〉と言ってあげよう』
そう言っていました。10月14日に手術することが決まりました」
がんと向き合い生きていく