がんと向き合い生きていく

がんの転移があるのかないのか… 患者の不安は大きい

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 以前、私が担当医だった胸腺がんと闘った患者(外科医師)は、骨転移がなかったことを知らされた時の喜びを、後に奥さんが出版された「戦士に敬礼!」(斎藤菜々著 悠飛社)の中でこう記しています。

「K病院に着いた彼(F)は、偶然、エスカレーターの前でTS先生に会ったそうです。
『F先生、骨転移はないよ。手術できる、できるよ』

 TS先生は彼の顔を見るとすぐに声をかけてくださったとのことです。
『涙が出るほどうれしかったよ』

 彼はすぐに私に電話をくれましたが、その声は涙声でした。この経験がよほど心に残ったのでしょう。
『職場に戻ったら結果を聞きに来た患者さんには1分でも1秒でも早く結果を伝えてあげよう。ドアを開けて椅子に座る前に〈大丈夫でしたよ〉と言ってあげよう』

 そう言っていました。10月14日に手術することが決まりました」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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