がんと向き合い生きていく

とにかくお話を聞く…それだけで患者は笑顔を見せてくれる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■いまもあれで良かったのかと反芻する

 その1週間後、もう一度お会いすることもなくK先生は亡くなられました。

 私はいまも鎧兜のある広い部屋にK先生がひとりふせておられるあの日のことを時々思い出し、いつもあれで良かったのかと反芻します。K先生は何かもっと話したいことがあったのだろうか……。

 そして、K先生が別れる時に見せたあの笑顔を思い出し、「自宅に伺って良かったのだ」と身勝手に、そう思うことにしています。

 鎌倉時代中期の僧で、浄土宗第三祖の良忠上人は臨死者の看護についてこう言っています。

「決してこちらから注文するようなことがあってはならない。できるかぎり、良いことも悪いことも、病人の思いにそって差し上げられるようお努めください」

 800年も前に説かれたこの“あるべき姿勢”は、いまも同じではないかと思うのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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