■いまもあれで良かったのかと反芻する
その1週間後、もう一度お会いすることもなくK先生は亡くなられました。
私はいまも鎧兜のある広い部屋にK先生がひとりふせておられるあの日のことを時々思い出し、いつもあれで良かったのかと反芻します。K先生は何かもっと話したいことがあったのだろうか……。
そして、K先生が別れる時に見せたあの笑顔を思い出し、「自宅に伺って良かったのだ」と身勝手に、そう思うことにしています。
鎌倉時代中期の僧で、浄土宗第三祖の良忠上人は臨死者の看護についてこう言っています。
「決してこちらから注文するようなことがあってはならない。できるかぎり、良いことも悪いことも、病人の思いにそって差し上げられるようお努めください」
800年も前に説かれたこの“あるべき姿勢”は、いまも同じではないかと思うのです。
がんと向き合い生きていく