がんと向き合い生きていく

妻を亡くした知人は「闘わない」と決めていたのだろうか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Uさんが亡くなられて4年ほどたった頃、Mさんの兄Oさんから電話がありました。

「弟が動けない状態です。佐々木先生にお願いしたいと言っています」

 救急車で来院されたMさんは別人のように痩せ細り、血圧も下がっていました。奥さまを亡くしてひとり暮らしだったMさんは、数カ月前から固形物が喉を通らなくなり水分しか取っていなかったそうです。

 点滴など、緊急の処置で血圧が安定したところで、全身のCTスキャンを行うと、縦隔に大きく広がった食道がんがあり、腹腔内のリンパ節、そして肝臓には大きな多数の転移を認めました。私は愕然としながら「どうしてこんな状態になるまで我慢していたのだろうか?」と思いました。Mさんはその後に意識がなくなり、3日後に亡くなられました。

■がん治療の環境は大きく変わっている

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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