Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

私自身がんになって<3>自ら異常を見逃したのは魔が差した

故・菅原文太さん(右)も膀胱がんだった/(提供写真)

 人間弱いもので、確定診断を下す膀胱の内視鏡検査を受けるまで、がんではないような気になっていたのも事実です。妻にも「がんではない可能性もある」とも話していました。

 淡い希望はかなわなかったわけですが、医師として「早期の膀胱がんなら手術で治る」という知識はありましたから、妻ほどの動揺はありません。それだけに「がん=不治の病」のイメージで泣き続ける妻を帰宅して落ち着かせるのは、少し大変だったことを覚えています。

 過去のデータを見直してみると、2017年6月の自己エコー検査で、膀胱がんの所見がハッキリと見て取れました。なぜ、その時点で内視鏡検査を受けなかったのでしょうか……。自分でも分かりませんし、今となっては、魔が差したとしか言いようがありません。患者さんに同じミスをしていたら、医療訴訟で訴えられていたかもしれません。

 私自身の経験で何となく思うのは、生物は自分の病気や死を意識しないようにプログラムされているような気がします。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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