天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓病がある妊婦には諦めてもらわなければならない場合も

順天堂大学医学部附属順天堂医院の天野篤院長(C)日刊ゲンダイ

 それまでは大きな問題はなかったのに、妊娠中に心臓疾患を発症したり、症状が悪化した場合、妊娠の継続はあきらめてもらって母体を優先させる対応が一般的です。妊娠中に感染性心内膜炎を起こしたり、急性大動脈解離を発症して、母体と胎児を維持したまま手術が行われた報告はあります。ただ、手術の際に人工心肺を使うことで血液の環流が悪くなる状況で、胎児が生き続けられるのかどうかは予測できません。ですから、心臓の状態に少しでも時間的な余裕があれば、やはり妊娠の継続は中止して母体の安全を確保するのが生命倫理的な考え方といえます。

 20年ほど前に初めて診察した心房中隔欠損の女性患者さんも、同じような状況でした。経過観察中に結婚して子供を授かり、無事に出産したのですが、2人目を妊娠したタイミングでうっ血性心不全の症状が表れたのです。残念ながらお腹の中の子供に影響が及んで無脳症だということがわかり、流産の手術が行われました。その後、すぐに心房中隔欠損と部分肺静脈還流異常の手術を行い、心臓は元の状態に戻りました。数年後、彼女は再び子供を授かり、いまも元気に「母親」としてがんばっています。

 心臓疾患だからといって妊娠をあきらめる必要はありませんが、それによって起こる可能性がある問題やリスクを知っておかなければいけません。まずは医師にしっかり相談してください。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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