がんと向き合い生きていく

桜の下で幸せそうに喜ぶ患者さんを見て思わされたこと

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 桜が咲くと必ずAさん(当時34歳)という乳がんの患者さんを思い出します。

 随分前のことになりますが、私が勤めていた病院の裏庭に桜の木が2本並んでありました。当時は毎年この時季になると、化学療法科(腫瘍内科)病棟の桜の花見の日を2週間ほど前に決めていました。そして、1週間ほど前から患者さんに花見をする希望を聞いておきます。桜の木の下へ花を見に行くことを、ほとんどの患者さんが希望されました。

 日程が決まると、天気を心配し続けて当日を迎えます。その日だけは注射などの抗がん剤治療は午後に回しました。看護師は、この日はいっそう忙しく見え、いや、普段よりもっと生き生きと輝いているようでした。

 その日は幸い晴れて、暖かい陽に恵まれました。午前10時から準備を始め、その後、患者さんの移動です。病院の裏庭にある桜の木の下に敷くシート、椅子、点滴架台などの運搬から、看護師と医師がカンパして買った飲み物、お団子、お菓子を運ぶことから始まりました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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