後悔しない認知症

認知症在宅介護 子供の肉体的精神的負担を喜ぶ親はいない

写真はイメージ(提供写真)

 映画はひとつの表現様式にすぎず、必ずしも現実をただ忠実に描くものではない。ただ、認知症を取り巻く環境を知る医者として「長いお別れ」に「在宅介護の美談部分にフォーカスしすぎているのでは?」という印象を持った。つまり、この作品がフォーカスする家族愛の世界とは異なり、現実の認知症高齢者の在宅介護は当事者にとってはもっと過酷だということ。そのことを忘れてはならない。

「認知症の母親の見たことのない笑顔に、娘さんが感動していました」

 老人介護施設で管理栄養士として働く30歳の知人女性が、あるエピソードを話してくれた。

 ある日、施設で火災や地震に備えた避難訓練が行われたそうだ。スタッフが戸外に入居者を誘導すると、認知症の高齢者が楽しそうに、そして競い合うように歩きだしたのだという。「なぜ楽しかったの?」とたまたま見舞いに来ていた娘が入居者である母親に尋ねると、こう答えたという。

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和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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