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4月1日から施行される「改正健康増進法」について思うこと

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 多くのコンビニエンスストアでは、たばこを販売しています。行政機関の庁舎にはコンビニが入っているところが多く見られます。

 4月1日から施行される「改正健康増進法」では、行政機関の庁舎の敷地内が禁煙としてあります。しかし、庁舎内のコンビニでいまだにたばこを売っているのが、どうも腑に落ちません。

 多くの病院内の売店ではたばこは売っていません。庁舎内のコンビニでもたばこの販売はすべきでないと思います。

 ある行政機関の健康に関係する部署に問い合わせても……知らぬ返事でした。

 関係ないことかもしれませんが、「ギャンブル依存症治療で健康保険が使えるようになった。だからカジノをつくってもいいの?」と言われた方の声が頭をよぎります。

 2010年、IOC(国際オリンピック委員会)とWHO(世界保健機関)は「たばこのない五輪の推進」で合意し、その後、五輪開催都市だったロンドンとリオデジャネイロでは飲食店などの屋内全面禁煙が実現したそうです。そして、「その禁煙による飲食店の客離れはなかった」とする調査もあります。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京五輪は延期されるようですが「喫煙者は重症化率2・2倍、死亡率3・2倍」との報告があります。

 19年7月1日から「学校・病院・児童福祉施設等・行政機関の庁舎等」では原則として敷地内が禁煙になりました。繰り返しになりますが、この4月1日からは「全面施行」となったのです。学校、病院、児童福祉施設、行政機関の庁舎以外でも、多数の人が利用するすべての施設――鉄道や飲食店も原則屋内禁煙になります。喫煙禁止場所で喫煙した個人に30万円以下の過料が科されることもあります。

 これでも厚労省が出した当初の案に比べると、かなり緩めた案が閣議決定されました。以前の案よりも、受動喫煙対策は大きく後退しているのです。

 厚労省の骨子案は30平方メートル以下のバーやスナック以外を原則禁煙とするものでしたが、飲食店の客離れを懸念する自民党側の調整がつかず、「飲食店は原則屋内禁煙とするが、客席100平方メートル以下で、個人経営か資本金5000万円以下の中小企業が経営する既存店では例外的に喫煙を認める」と緩めたのです。

■喫煙率は微増している

 たばこを吸う人ではなく、その周りの人がたばこの煙を吸い込むことを「受動喫煙」といいます。少なくともこの受動喫煙がなくなれば、たばこを吸わないのにたばこが原因で亡くなる年間1万5000人の命は助かるのです。

 たばこが原因となる病気は、がんばかりではありません。脳卒中や心筋梗塞などにも影響し、たばこで年間100万人以上が病気になっています。そして、そのための医療費は同1兆4900億円に上ると推計されているのです。

 厚労省の今年1月14日の発表によると、18年の「国民健康・栄養調査」での喫煙率は、男性29%(前年比0・4ポイント減)、女性8・1%(同0・9ポイント増)で、男女合わせた喫煙率は17・8%(同0・1ポイント増)と、むしろ微増状態です。男性の年代別では、30代が37・4%、40代が37%と高く、女性は40代13・6%、20代10・8%と続きました。

 この喫煙者が減らない現実をどうすればよいのか。日本のがん人口が減らない理由は、高齢社会であることだとは言われますが、喫煙者が減らないことも原因です。新型コロナウイルス肺炎で重篤にならないようにするためにも、喫煙している方はこれを機会に禁煙しましょう。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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