死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期

見直しが4年遅れて「患者の選別」を招いた診療報酬制度

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

 現在の日本は、これまでに経験したことがない高齢化社会に突入している。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、日本の人口は9年後の2029年に1億2000万人を下回り、その36年後の65年には8808万人まで落ち込むという。

 一方で高齢者の数は増え続け、ピークを迎える42年には65歳以上が3935万人に膨らむ。その後は高齢者の数も減り始めるが、高齢化率は上昇を続けて65年には国民の2・6人に1人が65歳以上になるそうだ。医療や介護が必要とする人は増え続けるのに、それを担う人は減り続ける格好である。そんな中で我々は人間らしい穏やかな死を迎えられるのだろうか。それは死を忌み嫌う今以上に困難なように思われる。

「その人らしく死ねるように支援するのは、もしかしたら“負け戦”かもしれません。近い将来は人手が足りなくなり、高齢者はオムツを替えてもらうこともできなくなる。入院から在宅医療への移行や介護医療院の創設などは国策として悪くないし、ロボットの導入など医療のオートメーション化もせざるを得ないと思います。それでも多死社会への備えとして十分だとは言えないでしょう」

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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