死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期

見直しが4年遅れて「患者の選別」を招いた診療報酬制度

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

■足りない「多死社会」への備え

 もともと日本では制度の見直しが後手後手になってきた。在宅医療についても、国は病院にはめた足かせをなかなか外そうとしなかった。

「国は現在、膨張する医療費の支出を抑えるために病院よりも治療費が安い在宅医療を推進しています。訪問診療の報酬も外来よりも高く設定されるようになりました。ただし、同じ訪問診療でも、診療所と病院(200床未満)に同じ診療報酬が払われるようになったのは2010年になってからです。06年に在宅療養支援診療所制度がスタートした時は、診療所以外で対象となるのは、半径4キロ以内に診療所が存在しない病院に限定されていたのです」

 普通に考えれば、医師が一人で対応しているような診療所よりも、大勢の医師が在籍する病院の方が訪問診療をやりやすいはずだ。インフルエンザが流行している時期になれば、診療所は近所の子供の診察で手いっぱいになる。そんな中で往診に行くのは困難だろう。それでも国は「往診は診療所が担うべきもの」としてきたのだ。

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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