貧困高齢者を苦しめる厚労省ルール 訪問診療医が実感した「新型コロナ」の教訓<上>

小堀鷗一郎医師(C)日刊ゲンダイ

「家具や調度品、真っ黒になる靴下を見れば、ギリギリで生活していることが分かります。だからウチではコロナが流行する前から、患者に金銭的な負担がかからないようにしていたんです」

 患者の状態が安定していれば、熱や血圧を測って聴診するなど様子を見るだけだ。そのために月に2回も訪問して9000円を出費させるのは忍びないと思ったという。

 その結果、電話診療については、訪問診療の7分の1程度となる外来の再診料の診療報酬で応じることになった。それでも24時間365日、患者に対応できる体制は崩さなかった。

「患者のことを考えた診療をしていました。それを否定する仕組みには非常に違和感がありますね」

 いくら現場が柔軟に対応しても、権限を握る役人は弱者に寄り添おうとしない。それはいつの時代も改まらない医療行政の欠陥だ。

 コロナ禍の今こそ、旧来の悪弊を見直すべきである。

(つづく)

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小堀鷗一郎

小堀鷗一郎

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

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