この時の対象患者はFAPではなかったのだが、武藤医師らは「複数個の大腸ポリープができる人に低用量アスピリンが有効なら、FAPにも効果があるのでは」と当時から考えていた。
「大腸がんの発がん経路は3つあり、最も多くを占めるのがポリープを母地として発がんする経路です。これはFAPによる大腸がんであっても、一般の大腸がんであっても共通しています」
「ポリープを母地として発がんする経路」とは、がん抑制遺伝子であるAPC遺伝子の変異で正常粘膜にポリープができ、次にがん遺伝子が活性化してポリープが大きくなり、さらに炎症が別の遺伝子変異を招き、やがてポリープが、がん化するというもの。
前述の通り、FAP患者はAPC遺伝子の異常でポリープが100個以上できるわけだが、数を別にすれば、一般の大腸がんでも「APC遺伝子が正常に働かないため大腸ポリープができ、炎症が次の過程を招いてがん化」という点は同じ。