がんと向き合い生きていく

医療連携手帳の活用でがんも他の病気もスムーズに治療できる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 たとえば、乳がん患者で10年間も経過を見る必要がある場合、その間、風邪、高血圧、転んでケガをしたなどで自宅近くのクリニックにかかることがあるかもしれません。この時、クリニックの医師は、乳がんの状態がすぐに把握できて適切に診療できるわけです。つまり、がん患者がこの手帳を持っていれば、Kさんのような帯状疱疹の皮膚科でも、腰痛の整形外科でも、がんの状態をすぐに把握できることでより適切な治療が可能となるのです。

 また、たとえば持病に糖尿病があったとします。その場合、がんは定期的にがん専門病院で、糖尿病は近くのクリニックで診てもらうということも、この手帳を利用することで非常にスムーズにできるのです。

 最近、私が医療連携手帳についてある患者や医師に尋ねてみると、「知らない」との答えでした。それほど普及していないのが現状のようです。心配になって、東京都福祉保健局に問い合わせると、この手帳はしっかり“生きている”との回答がありました。

 医療連携手帳は、全国でがん拠点病院を中心にそれぞれ作られました。東京では「東京都医療連携手帳」、神奈川県では「神奈川県医療連携手帳」といったように名付けられています。

 5大がんをはじめとするがん患者の診療に当たって、ぜひ活用いただきたいと思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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