がんと向き合い生きていく

抗がん剤がネックになり介護老人施設に入所できない患者も

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Sさん(79歳・男性)は肺がんで手術後に抗がん剤を内服し、呼吸器外科病棟を退院することになりました。

 しかし、ひとり暮らしです。筋力が落ちていてふらつきがあり、すぐに自宅に帰るのは無理と考えられました。そこで担当医は、2~3カ月ほど介護老人保健施設(以下老健)に入所して体力を回復してから自宅に戻るプランを考え、ケアマネジャーに相談しました。しかし、「それはきっと無理でしょう」との答えでした。

 本来、入院治療を終えて病院を退院となっても自宅での生活がまだ体力的に難しい場合、自宅に帰れるくらいの体力を回復させる――老健はそのための施設のはずです。リハビリの設備もあります。

 しかし、Sさんには「抗がん剤を内服している」という問題があるのです。老健に入所する場合、その利用料は介護度などで一定額が決まっています。その中に薬代も病院にかかる場合の医療費もすべて含まれています。ですから、抗がん剤のような高い内服薬を服用している場合は、その分も老健が負担することになります。つまり、老健が抗がん剤の費用まで負担するとは考えられないと言うのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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