がんと向き合い生きていく

可能性があったはず…「縦隔腫瘍」だった若者をいまも思い出す

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 約35年も前のお話です。当時23歳だったFさん(男性)は、就職した会社の2年目の健診で胸部X線に異常影を指摘され、胸部外科に来院されました。X線検査の写真では、前縦隔(心臓の前、両側肺の間)に径8センチの大きな腫瘤を認め、上大静脈を圧迫していました。

 呼吸器外科医は手術不能と判断し、私が勤務している内科(化学療法科)での診療を依頼してきました。腫瘍の針生検検査では、がん細胞を認めています。

 呼吸器外科医は、すでにFさんの父親に「このままでは長くは持たないと思います。覚悟をしておいてください」と告げていました。当時、この病気はいかなる治療でもほとんどが助からない時代でした。

 化学療法科に転科されてきたFさんは、頚が太くなっているのが一目で分かります。私は、Fさんの父親に「がんの大きくなるスピードが速く危険な状態です。抗がん剤治療ができるギリギリと思います。何とか良くなるように頑張ってみましょう」と、治療の了解をとりました。父親は覚悟はできているようでした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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