がんと向き合い生きていく

医学生のリポートを読んで思い出す医学部受験での出来事

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 当日の朝はみぞれが降っていました。試験場は古い教室で、ひとつの部屋に25人ほどの受験生が割り当てられ、机をひとつ置きに空けた座席でした。新聞での予想倍率から、私は「この部屋の中で合格する人は1人いるかいないかだ」と思いました。

 数学は過去問とは違って意外と簡単な問題が多く、難なく進みました。 試験2日目の夕方、宿舎に戻ると、同宿の浪人生が「どうだったか」と私に尋ねました。「生物は大丈夫と思う。数学も意外と書けた」と答えたところ、「君は受かったよ」と言われました。もし不合格だったとしても、悔いのない気持ちで終わりました。

 実家に帰ると、父は「仙台の予備校は早くしないと入れないらしいから申し込んでおいた」と、新しい予備校の教科書を5冊渡してくれました。

 翌日、ひとり仙台の街を歩いて下宿先を探しましたが、ぶらぶらしただけで何も決めないで帰りました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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