上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

小切開手術での死亡事故は経験不足の医師による不手際が重なった

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 MICSは、小さな傷で済むため順調にいけば体の負担が少なく、短期間で退院できるというメリットがあり、近年は希望される患者さんが増えています。治療効果も従来の手術と遜色がないというデータが蓄積されてきたこともあって、私も3年ほど前から取り組み、良好な結果を残しています。

 ただ、弁膜症手術では、右胸の下を小さく切開した範囲の中で行うため視野が狭く、手技も制限を受けます。MICSに慣れていなかったり、従来の開胸手術の経験をそれほど積んでいない外科医が行うケースでは、時間が余計にかかったり、むしろ心臓に大きなダメージを与えてしまうリスクがあるのはたしかです。

■「心筋保護」が重要

 今回の事例も、知識や経験が不足した医師による不手際が重なって起こってしまったと言わざるをえません。MICSでは「心筋保護」が重要なカギとなります。手術は人工心肺装置をつなげて心臓を止めた状態で行うので、心筋保護液を注入し、停止中の心筋の代謝を維持して心筋細胞が障害されるのを防がなければなりません。さらに、状況を見ながら心筋保護液を一定時間ごとに再注入して心筋を守る必要があります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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