上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

トラブルを防ぐためにあらためて「薬の適切な処方」を見直したい

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 多剤処方と長期処方が増えれば、それだけ薬の副作用による健康被害が生じるリスクがアップします。また無駄な薬が処方されるケースがあれば、無駄な医療費もかさみます。そうした懸念から、いまの保険診療では、医療機関が一度に7種類以上の内服薬を処方した場合、“ペナルティー”として処方料が減算されるようになりました。しかし、それでもお構いなしにたくさんの薬を処方する医師はいますし、いくつも薬を処方してもらいたがる患者さんは少なくありません。

 先ほどもお話ししましたが、服用している薬の種類が多くなれば、副作用が現れるリスクは上がります。6種類以上の薬を飲んでいる人は副作用の発現率が10%を超え、有害事象が起こりやすくなるという報告もあります。薬の飲み合わせや作用の重複による効きすぎで健康を損なう可能性も高くなります。

 そのうえ、それが長期処方となれば、さらにリスクはアップすると考えられます。現在、長期処方が許されている薬は、長期の使用でも安全性が認められている薬に限られます。しかし、その中でも比較的新しい薬や、患者さんがそれまであまり使った経験がないような薬が、いきなり2~3カ月分処方された場合、その患者さん固有の副作用が生じる危険があるのです。そうした副作用が出たとき、患者さんが自分で薬を中止する判断ができればよいのですが、多剤処方でたくさんの薬を使っていると、どれが原因になっているのかはそうそうわかりません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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