医療だけでは幸せになれない

統計学的に「正しい」が薬を飲む「正しさ」にはつながらない

個別の人にとって正しいかどうかはまた別問題

 しかし、これは今では間違いであることがわかっている。利尿薬、β遮断薬という古い降圧薬とCa拮抗薬、ACE阻害薬という新しい降圧薬を直接比較した多くのランダム化比較試験によって、心筋梗塞に対する効果はほぼ同等であり、心不全の予防効果はむしろ利尿薬で大きいことが示されている。

■ランダム化比較試験の結果はあくまで確率

 高血圧の治療の専門家ですら、これが現実であった。少なくとも医学的な「正しい情報」すら正しくは認識されていないし、何が正しいかということ自体、必ずしも共通の認識がなかった。それが今から40年前である。

 ただ40年を経て、治療や予防効果について、病態生理は重要だが仮説に過ぎず、ランダム化比較試験とそのメタ分析によって統計学的に効果が示される必要があるという共通の認識は、多くの医者に共有されるに至った。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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