医療だけでは幸せになれない

マスクの予防効果を検討…もうひとつのランダム化比較試験「バングラデシュの研究」

バングラデシュの研究では…(C)ロイター

 これまで取り上げてきたことを一度まとめておこう。

 情報の表すものは「真実」「バイアス」「偶然」であって、バイアスには「情報バイアス」「選択バイアス」「交絡因子」がある。そのうち交絡因子をコントロールしたデンマークで行われたランダム化比較試験の結果を、差の指標である「絶対危険減少」と、比の指標である「相対危険」、さらにはその「95%信頼区間」、「危険率」も見ながら検討した。今回も同様に、バングラデシュで行われたランダム化比較試験の結果について検討していくことにしよう。

 この研究はバングラデシュの田舎で、自治体、家庭を対象として、マスク着用を勧める場合と勧めない場合において、症状のあるコロナ感染症の発症を比較したクラスターランダム化比較試験である。デンマークの研究が個人個人についてマスクを勧める/勧めないというやり方であったのに対し、この研究では自治体や世帯レベルでマスクを勧めるか/勧めないかという方法をとっている。この後者の集団ごとに推奨、非推奨を割り付けるランダム化比較試験をクラスターランダム化比較試験と呼んでいる。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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