医療だけでは幸せになれない

マスクの予防効果を検討…もうひとつのランダム化比較試験「バングラデシュの研究」

バングラデシュの研究では…(C)ロイター

 こうした全参加者のうち一定の条件を満たしたものに限って行う検討を「サブグループ分析」と呼ぶ。サブグループ分析には参加者数が減少するために統計学的な有意差が出にくいという部分と、逆に極端な結果が出やすく有意差が出やすいという両面がある。いずれにせよ偶然の影響が大きく、どのような結果であっても注意が必要、有意差の有無を無条件に受け入れてはいけない。統計学的な有意差を見るのであれば、全体の検討結果のみを対象とすべきである。

 そこから得られる情報は、「マスク推奨により40%ほどの人が正しく着用して、1000の感染を905程度まで減らしたが、その結果は大きく見積もっても1000を815に減らす程度の効果かもしれない」というところである。しかし、ここまで読めてようやく医療の効果を検討した論文を読み、考えることのほんの入り口に立ったに過ぎないのである。

4 / 4 ページ

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

関連記事