その患者さんは動脈瘤の手術に加えて3カ所の冠動脈バイパス手術が必要なうえ、動脈瘤のある位置が深かったため、手術が4時間以上に及ぶことが予想されました。先ほどお話ししたように、長時間にわたって循環を停止していると脳細胞に大きなダメージを与えてしまいます。そこで、首の頚動脈にカテーテルで人工心肺装置をつないで血液を送って脳の循環を維持する選択的脳灌流法を併用しました。
脳を保護しつつ体温を下げ、心臓の動きを止めてから動脈瘤ができている血管を切除して人工血管に交換し、3カ所のバイパス手術も実施したのです。その結果、術後の心機能は良好で、とくに後遺症もなく、自分でも完成度の高い手術ができたという手応えがありました。
もちろん、日常と手術時は大きく環境が異なりますが、脳=自律神経中枢の温度が全身に影響を与えるのはどちらも同様な生体反応といえます。脳に近い鼓膜温度の測定が可能な体温計は手軽に買えるので、ふらつきやボーッとした感じを覚えるときに測定して脳の温度を意識したり、季節の変化に応じて測定してみることが健康維持の新たなバロメーターになると感じています。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」