上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓手術でも脳を冷やして温度を下げてから実施するケースがある

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 その患者さんは動脈瘤の手術に加えて3カ所の冠動脈バイパス手術が必要なうえ、動脈瘤のある位置が深かったため、手術が4時間以上に及ぶことが予想されました。先ほどお話ししたように、長時間にわたって循環を停止していると脳細胞に大きなダメージを与えてしまいます。そこで、首の頚動脈にカテーテルで人工心肺装置をつないで血液を送って脳の循環を維持する選択的脳灌流法を併用しました。

 脳を保護しつつ体温を下げ、心臓の動きを止めてから動脈瘤ができている血管を切除して人工血管に交換し、3カ所のバイパス手術も実施したのです。その結果、術後の心機能は良好で、とくに後遺症もなく、自分でも完成度の高い手術ができたという手応えがありました。

 もちろん、日常と手術時は大きく環境が異なりますが、脳=自律神経中枢の温度が全身に影響を与えるのはどちらも同様な生体反応といえます。脳に近い鼓膜温度の測定が可能な体温計は手軽に買えるので、ふらつきやボーッとした感じを覚えるときに測定して脳の温度を意識したり、季節の変化に応じて測定してみることが健康維持の新たなバロメーターになると感じています。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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