医療数字のカラクリ

標準偏差の異常が発端だったディオバン事件

 この平均値と標準偏差からすると、論文では「平均値4.5より2.2くらい高い、つまり6を超えるような人が20%いる」ことになります。これは大変です。そんなにカリウムの高い人をそのまま研究に参加させるわけにはいかないからです。

 つまり、この論文のカリウムの標準偏差の値は実際に測定されたものとは異なっており、故意か否かは別にして、明らかに間違っているということです。

 そもそもカリウムの標準偏差は本来、0.2とか0.3とかいう値で、2を超えるということはありません。これは、標準偏差を眺めるだけでも、論文の捏造発見のきっかけになるかもしれないという大きな教訓です。肝に銘じたいものです。

▽名郷直樹(なごう・なおき) 「武蔵国分寺公園クリニック」院長、「CMECジャーナルクラブ」編集長。自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、東大医学教育国際協力研究センター学外客員研究員。臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「『健康第一』は間違っている」など。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。