医療数字のカラクリ

ナチスの「人体実験」を忘れないための「ヘルシンキ宣言」

 今回からは「人体実験」を「臨床試験」と呼ぶことにします。ここには「敗戦」を「終戦」と言い換えるような“目くらまし”という面があり、むしろ「人体実験」と呼んだほうがいいのではという気もします。しかし、それでは誰も実験に参加してくれなくなって、人間を対象とする医学研究そのものを困難にする可能性が高く、ここは「臨床試験」という言葉で手を打とうというところでしょう。

 そうした言葉の言い換えで負の側面が覆い隠されないように、臨床試験にはさまざまな外的な規制が設けられています。その中に、臨床試験の倫理面に関する規制として、「ヘルシンキ宣言」と呼ばれる倫理規定があります。

 この宣言は、「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」という副題が付いています。

「人間を対象とする医学研究」の一部は「人体実験」つまり「臨床試験」です。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。