がんと向き合い生きていく

93歳のおばあさんが治療した分だけ長く生きた意味

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■「あのまま亡くなった方が幸せだった」と言われて…

 おばあさんに再び異変が起こったのは、翌年の5月のある夜でした。急に全身の痙攣を起こし、救急車で病院に搬送されました。担当医からは「これまでの内服治療が効かなくなり、脳の転移が増えたために痙攣が起こった」と説明されました。がんの治療は行わず、抗痙攣剤などの点滴や酸素吸入などで様子をみることになったのです。

 数日たってもおばあさんは意識がない状態で、小さい痙攣を繰り返しています。心配した孫娘が病室を訪れていたとき、驚くことがありました。中年の女性清掃員の独り言のようなつぶやきが聞こえてきたのです。

「前に入院したときに薬で治療されたから、今こうして苦しんでいるのよね。ほら、前よりも苦しそう。あの時、治療しないであのまま死なせてあげればよかったのに……。お金もかかるし、みんな大変でしょう。かわいそうに、こんなにしてまで生かされて……」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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