天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

理想の去り際は「惜しまれつつ、されど潔く」

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 私はあくまでも手術を執刀したというだけで、その患者さんのかかりつけの担当医ではありません。ですから、診察する機会も数カ月に1回程度です。それでも、亡くなった知らせを聞くと、あのときほかに何かかけられる言葉があったのではないか、もっとお話ししておけばよかったのではないか……といった気持ちが湧き上がってくるのです。

 外来で患者さんにお会いするたびに、「執刀医として、この患者さんがいつ亡くなっても思い残すことはない」といった覚悟はどうしてもできません。また3カ月後に来てくれれば、またお会いできればいいなという思いがあるのです。

 そうした患者さんと多く接していると、自分自身の去り際についても考えさせられます。

 私には妻、長男、長女の家族がいますが、その家族に見守られながら安らかに息を引き取る最期は想像していません。自分勝手かもしれませんが、ひっそりとしかし厳かに逝きたいのです。自分の死が家族の負担になってしまうかもしれないという思いからではありません。自分の生きざまとしてそう潔くありたいのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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