小宮さんが続ける。
「自分の死後も人々の記憶にとどまりたいという気持ちは、誰の心にも少なからずあると思います。歴史に名を残すような有名人もいますが、たとえ無名の人であっても誰かに覚えていてもらいたいという気持ちは同じでしょう。それが今回は、たまたま僕という媒介があったわけで、『妻はこういう人でした』と他の人に語ってやることができた。一般の人が本を出版するのは難しいかもしれませんが、故人を思い出したり、生前の出来事を語ったりはできます」
2年前に他界した永六輔さんは、「人は2度死ぬ」と話していた。1度目は生命がその活動を終えた時。2度目は自分を覚えている人がいなくなった時だ。
「死んでも誰かが思い出してくれるたびに、故人はその人の中で生き続けます。だから僕は、できるだけ長生きしようと思います。僕の妻は31歳で乳がんになり、42歳の若さで亡くなりました。ただ、僕ががんを憎んでいるかというと、そうではない。急に交通事故で亡くなったわけではないし、同じつらい別れを経験するのなら、がんでよかったと思っています」
佳江さんが旅立った後、彼女がかわいがっていた「りゅう」と「ライ」の2匹の猫も後を追うように死んでいった。
ただし、小宮さんが生き続ける限り、佳江さんと猫たちはずっと生き続けることになる。
=おわり
がん発症の妻にしてあげた10のこと