がんと向き合い生きていく

終末期の父親が震える手で3人の子供たちに書き残した言葉

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 病気は次第に悪化していきましたが、悪い日ばかりではありません。奥さんは毎日来院され、受験を控えた3人のお子さんもよく見舞いに来られました。

 Hさんの上司だったMさんは、ご自分の詩を書いた絵はがきを、毎日毎日病院に送ってくれました。Mさんは若い頃に故郷で小学校の助教諭をされていたそうです。後になって、この絵はがきをまとめられて「詩集あかね空」(柊益美/山脈出版の会)を出版され、その詩集は今も私の手元にあります。

 10月17日の絵はがきです。

 ◇  ◇  ◇ 

あかね空

いけないな
母さんと あんなに
約束してたのに
あそびすぎ
もう日がくれる
こんなにおそい
どこかの街の どこかの坊や
急いで 走って 帰っていく

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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