がんと向き合い生きていく

あなたらしく生きる…余命3カ月を告げられて気づいた思い

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 さらに、Aさんはベッドに入ってから考えました。

 セカンドオピニオンをお願いすることには決めたが、B医師が言った「あなたらしく生きる」とは何なのか? もし、がんになっていなかったら何をしたかったのだろう?旅行か? たしかに旅行は好きだが……。

 そういえば思い出した。若い独身時代、ちょうど旅行の直前に失恋し、旅先で遊覧船の美しい景色を見ても、「彼女のいない旅行なんて意味がない」と思ったな。仕事で失敗した時、社長から勧められて家族旅行に行った時も、まったく景色が目に入らず、頭は失敗のことしか考えていなかった。

 あの時とはまったく状況は違うが、また同じ思いをするような、そんな気がして旅行に行く気にはなれない……。

 いろいろなことを考えているうちに、Aさんは「今はまだ諦めたくない自分がある。そして希望を持っていたい」という思いに気がつきました。別の病院でセカンドオピニオンを受けてみて、納得できなかったらさらにもう1カ所でお願いしてみよう。そして、もし何か治療法が見つかって、その治療が決まり、その直前の旅行なら行ってみたい。そんな気がしたそうです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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