後悔しない認知症

大事なのは子供や周囲の「幸せに生きてほしい」という気持ち

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 そのスタンスは見事である。実際、脳の「残存能力」は、かなりのものと推察した。

 これは彼に限ったことではない。認知症を発症してもさまざまなスタイルで「現役」を続ける高齢者は多い。例えば人手不足が深刻な農家、地方の個人経営の商店などでは、立派な労働力となっている。若い頃に培った知識やスキルが十分に役立っているのである。また、都市部でも幼児や小学校低学年を対象とした「読み聞かせ」や英語のレッスン、地域イベントなど、さまざまなボランティア活動を行っている高齢者も多い。こうした活動は、本人はもちろんのこと、周囲の認知症に対する正しい理解があるからこそ成り立つ。すなわち、「もうできないことはあるが、まだできることがある」わけだ。「もうできない今」を嘆くのではなく「まだできる今」を愛でるという本人と周囲の共通認識である。本人にとっては、この「まだできる」は脳を使い続けることで認知症の進行を抑える効果もある。

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和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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