がんと向き合い生きていく

「私、食道がんと言われた」ケンカ別れした娘にメールを送った

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「それにしても『あなたの命です』って、そうなのだろうか? 命は私のものなのだろうか?」

 医師からたばこもお酒も止められて、夕食のおかゆさえ胸につっかかる……。ラジオから流れてくる演歌を聞いていたら、Dさんは急にみじめな気持ちになってきました。

「あなたの命? 自分が好んで生まれた命でもない。いま、食道がんのこの体に宿っている命って、本当に自分の命なの?」

 ふと、命のことを考えるなんて何十年ぶりだな……とも思います。そして、「あなたが決めてくださいと言われたけど、どっちに決めても私にはこの先の人生にいいことなんてなんにもない」と、また暗い堂々巡りが始まりました。

 そんなことを考えていたら、急に娘のことが気になってきて「私、食道がんと言われた」とメールを送りました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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