独白 愉快な“病人”たち

頭木弘樹さんは潰瘍性大腸炎で13年間入退院を繰り返し…

頭木弘樹さん (撮影)八雲いつか

■カフカを読み返して絶望感に共感

 就職も進学も「無理」と言われた絶望的な入院生活で活路を見いだせたのは、中学生の時に読書感想文のためにいやいや読んだカフカの「変身」を思い出したことです。ある日、目覚めたら虫になっていた主人公がまるで自分のように思えたんです。

 読み返してみると、その絶望感にどっぷり共感できて夢中になりました。カフカの日記や手紙がまた面白くて、「ぼくは将来に向かって歩くことはできません。いちばんうまくできるのは倒れたままでいることです」というくだりをベッドの上で読んだら、まるで自分のことで、すごく心に染みました。

 僕が読んでいたことから、6人部屋の病室でドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」が大はやりしたこともありました。隣の病室にも広まり、看護師さんたちも驚いていましたけど、決して解決しない問題をクドクドグチグチ言い続ける暗い内容が難病を抱えた僕らにはハマったんです。

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