最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

「噛めない・のみ込めない」をサポートするのが言語聴覚士

写真はイメージ(C)PIXTA

 私たちが出会った患者さんで、90歳代前半の女性がいました。かつて入院中にゼリーを喉に詰まらせた経験がありましたが、元来食べることがとても好きな方だったので在宅医療に変えたことをきっかけに、口から物を食べるリハビリ(嚥下訓練)に挑戦したいとのことでした。病院に入院していては、「誤嚥性肺炎のリスクがあるから」と、患者さんの希望は受け入れてもらえないかもしれません。しかしそこは、患者さんの生きる喜びを重要視する在宅医療です。言語聴覚士が家族とともに嚥下訓練を開始しました。そして最終的には、念願のゼリーを口から食べられるようになったのです。

 患者さんは5カ月ほどで旅立ちましたが、家族の「おばあちゃんはゼリーを食べられた時、ものすごくうれしそうだった。もっと、もっとと言ってくれた。最後の方は1口、2口だけだったかもしれないけど、食べることで前向きな気持ちが生まれたのか、『今日はお化粧をしたい』と、お気に入りの口紅を塗ったり、おしろいをはたいたりして、おばあちゃんらしく日々過ごせたと思います」という言葉が忘れられません。

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下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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