がんと向き合い生きていく

「毎日、体のどこかが痛い」と訴えるひとり暮らしの患者の心境

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 以下、こんなやりとりが続きました。

「アハハハ、ならいいよ。もう少し様子を見るよ。でも、畑はいいよ~。昨日は土しか見えてなかったのに、今朝はアスパラがすくっと5本、生えていた。夜中に出たのかね? 毎年、同じことだけど、見てると不思議だね。それはそれはおいしいんだから……おいしいよ。まあ、雑草だって刈っても刈っても生えてくる。そうだよ、植物はすごいね。腰が痛くても、畑からは目が離せない。この間、息子が来て、お寺に連れてってくれたんだ。そこは“がんよけ寺”なんだって。私はリンパ腫になってしまったから、もう遅いけど。アハハハ」

「採血の結果も前回と変わりませんでしたよ」

「ありがとうございます。先生、今日は待っている患者が少ないみたいだから、まだ話していいかい? この間、うちの猫のミーちゃんがあまり食べなくなって、獣医さんに診てもらったら、白血病だっていうんだよ。それで抗がん剤も何もしないで死んじゃった……かわいそうなことをしちゃった。私のリンパ腫だって白血病と同じでしょう?私が治療してもらって、こんなに元気で長生きしているのに、猫のミーちゃんにはかわいそうなことをした。人間のと猫のとは違うんだよね。私のリンパ腫が猫にうつったことはないよね?」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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