冒頭の言葉は、男性が奥さまに漏らしたもの。病院で過ごすより、作業場がある自宅で過ごした方が夫は幸せなのではないか。奥さまはそう思い、私たちのクリニックへ相談の連絡をくれたのでした。ただ一方で、医療への不信感も抱いておりました。入院中に投与された鎮静薬の副作用で、男性の体調がひどく悪く、ほぼ寝たきりのようになった経験があったからです。
「病気の治療のためとはいえ、鎮静薬でかえって悪化したように見えました。病院ではなく在宅で、緩和医療も適切に行ってもらえるのでしょうか?」
私やスタッフは、今後の病状進行に伴い、どのような痛みが出てくるのか、その場合どのような対応が可能で、がんの種類によってどう違いがあるのかなど、過去の事例をひとつひとつ示しながら、男性と奥さまに説明をしました。納得してもらった上で、3カ月前から在宅医療スタートとなったのですが、その都度、不安や疑問が湧いてきます。私たちの仕事は、質問されるのを待っているだけではダメ。男性や奥さまの様子を見ながら、不安を覚えているであろうことをすくい上げ、それを解消するよう努めました。
老親・家族 在宅での看取り方