老親・家族 在宅での看取り方

夫婦2人で旅行がしたい 死ぬ瞬間まで自宅で仕事をしていたい

写真はイメージ

 2カ月ほど経った頃でしょうか。男性は薬の種類や投薬のタイミングなどの工夫で日常生活が送れるほどまでに体調が戻り、「生きがい」と言っても大袈裟ではない仕事も再開できるようになりました。あるとき、男性と奥さまからこんなことを切り出されました。

「2人で箱根の温泉に1泊2日の旅行をしたい」

 入院中は食事もできない状況でしたから、旅行なんて考えることもできなかったが──。

「旅行に行けるなら今かなって。こうやって、病院じゃなく、せっかく自宅にいるのだから。もう僕たちもこれが最後の旅行になるんじゃないかと思っているんです」

 人生の終末期を「自宅で過ごす」のと「病院で過ごす」のとでは、何が最も違いますか? そう問われた時、真っ先に伝えたいのは、「自宅(在宅医療)では、患者さんがやりたいように過ごせます」ということ。温泉旅行の思い出を語るお2人の楽しそうなこと……。「死ぬ瞬間まで」という希望をかなえられるよう、男性、奥さま、そして私たちスタッフが一丸となって、現在も「最高の療養」を模索中です。

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下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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