上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

暑い夏は立ち上がったときの急激な低血圧に気をつけたい

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 起立性低血圧が起こった場合でいちばん危険なのは、基礎疾患として大動脈弁狭窄症があったり、心房細動性の徐脈(1分間の脈拍が60回未満になる)がある人です。急に血圧が低下するとさらに脈拍が減るため、ショック状態になって心臓が止まる危険があるのです。

 心臓の反射の中に、心房に入る血液量が増えると心拍数を増加させて心房内の血液を早く動脈内に押し込もうとする「ベインブリッジ反射」というものがあります。これにより血管内の血液量が減ると脈拍数を落とすので、血圧低下が助長されます。その反射が極端になりやすい人は、そうしたトラブルが生じやすいといえます。普通ならば血圧が急に低下しても血の気が引いたくらいの状態で済むのですが、それらに該当する人はそのまま意識を失ってしまうとか、心臓が止まってしまうといった状況を招くリスクがあるのです。

 ほかにも、女性で生理が重い人、運動習慣があって汗をたくさんかくのに水分補給が少ない人など、循環血液量が変化する要因がある場合は起立性低血圧に注意したほうがいいでしょう。また、高齢者の骨格筋量が減少し、筋力もしくは歩行速度などの身体機能が低下する「サルコペニア」の人は、水分貯蔵庫である筋肉の量が減っているため、脱水や熱中症リスクが高くなります。サルコペニアの人は脱水や熱中症になると、脳保護のために血圧が一時的にバーンと上がります。その状態で急に立ち上がると、今度は血圧が一気に下がるため、そのまま意識を失って命を失うといった事態が起こりかねません。さらに日本人は、サルコペニアの人も含めて処方されている降圧剤をきちんと飲む人がほとんどです。そのため、ただでさえ血圧が下がる夏は降圧剤が効きすぎて血圧がさらに下がりやすくなる恐れがあります。

3 / 4 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事