A市の引っ越し先は、屋根は続いているものの台所から板の間があり、そこを渡って風呂場がありました。父の判断で、月1日24時間は家を留守にして、その風呂場に泊まることになったのです。
ある日、私がいつものように学校から帰って「ただいまー」と玄関から入ろうとすると、風呂場の方から「こっち、こっち!」という母の声が聞こえました。「ああ、そうか。今日はその日だった」と思い出し、風呂場から入りました。
風呂は木の丸い風呂です。いちばんの問題は横になって寝るスペースでした。板の間に布団を敷くのですが、両親は大変だったと思います。私は子供なので、場所は関係なくぐっすり眠っていたと思いますが……。
その日の父には、楽しい夕食が待っていました。近くに駅前食堂があって、メニューに「豆腐鍋」があります。父は豆腐が大好きで、うれしそうに食べる父の姿を見て私は喜んでいました。
がんと向き合い生きていく