がんと向き合い生きていく

科学は生き方を教えてはくれないが、人生が変わった人をたくさん診てきた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 A市の引っ越し先は、屋根は続いているものの台所から板の間があり、そこを渡って風呂場がありました。父の判断で、月1日24時間は家を留守にして、その風呂場に泊まることになったのです。

 ある日、私がいつものように学校から帰って「ただいまー」と玄関から入ろうとすると、風呂場の方から「こっち、こっち!」という母の声が聞こえました。「ああ、そうか。今日はその日だった」と思い出し、風呂場から入りました。

 風呂は木の丸い風呂です。いちばんの問題は横になって寝るスペースでした。板の間に布団を敷くのですが、両親は大変だったと思います。私は子供なので、場所は関係なくぐっすり眠っていたと思いますが……。

 その日の父には、楽しい夕食が待っていました。近くに駅前食堂があって、メニューに「豆腐鍋」があります。父は豆腐が大好きで、うれしそうに食べる父の姿を見て私は喜んでいました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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