改めて撮ったMRIの結果からは、「確かに認知症の傾向がある。ただ、脳の萎縮はそれほどではない」。
Aさんは「すり足」「開脚気味に歩く」といった歩行障害も抱えていました。ただ、もともと足が悪かったため、最初に受診した病院では、「足が悪いからふらついたり、転びそうになったりするのだろう」と捉えられていました。
後で詳しく述べますが、正常圧水頭症の3大症状のひとつとして、歩行障害があります。娘さんの強い希望もあり、正常圧水頭症をチェックする「タップテスト」をAさんは受けることになりました。腰椎の間から細い針を刺し、ゆっくりと脳脊髄液を排出する検査です。検査前と比べて、検査後に症状が一時的に改善すれば、正常圧水頭症が疑われます。数日間の検査入院で行います。
すると、検査直後は変化なしでしたが、翌日、歩き方が急激にスムーズになったのです。検査1週間後、正常圧水頭症と診断され、その後、Aさんは髄液シャント術という手術を脳神経外科で受けました。バイパスを設置して体液が本来通るべき流路と別のルートを流れる状態をつくり、脳脊髄液がたまらないようにする治療です。
認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う