上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「もうひとりの自分」と「時間が止まる」 高みを目指す過程で現れた2つの感覚

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 前回、およそ20年ぶりに手術での縫い方を変えたことについてお話ししました。チームのスタッフとの連携があまりうまくいかないケースがあり、縫合している最中に糸が切れてしまうトラブルが何度か発生したことが大きなきっかけでした。

 手術の完成度をより高めるためにも、私は「変革は常に必要」という信念を持っています。とはいえ、これまで日常的に繰り返してきた動きを変えるわけですから、まったく悩まなかったかといえば、そうではありません。

 執刀医のサポート役である助手に頼りすぎることなく、周囲との調和を図って連携をスムーズにするために何をすればいいのか──。あれこれ思案した結果、縫い方の変更に行き着き、背中を押してくれたのは「もうひとりの自分」でした。まるで幽体離脱したかのように全体を俯瞰して見ているもうひとりの自分が現れ、「そろそろ縫い方を変えたほうがいい」とささやいたのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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