何かに迷ったり、予期せぬ事態が起こったときにもうひとりの自分が現れるようになったのは、医師になって10年ほどたった38歳の頃でした。手術中に想定外のトラブルが発生したとき、手術台を上から俯瞰して冷静に見ているもうひとりの自分が現れ、耳元で指示をささやくのです。
この難局をどう切り抜ければいいのか。それまでの手術の流れから見て、このまま方向転換しなくてもいいのか、別の道を探すべきなのか。状況、時間、疲労などの状態を加味して、進むべき方向を示してくれます。「そのまま進んだらダメだ」「ここは止まったほうがいい」「もっとよく考えて別の方法を探せ」──。もうひとりの自分のささやきによって、全体を俯瞰して見て、流れに身を任せながら決断して方向を決めることができるようになりました。
今回、もうひとりの自分の客観的なささやきもあって縫い方を変える決断をした結果、私の中にあった助手への依存心が減り、糸が切れてしまうトラブルもなくすことができました。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」