そのうえ、抗がん剤治療を受けている患者さんの多くは、心臓の調子が悪くても「抗がん剤治療を受けているから」とか「自分はがんだから」などと思い込んでいるため、心臓の検査や治療がどんどん遅れてしまう傾向があります。心不全は、ある程度の高い感度の心臓エコー装置を使えば初期段階でもわかるので、診断がついてその時点で治療すれば、それほど大事に至らないケースが少なくありません。しかし、心不全の重症度を判定するNYHA心機能分類で、Ⅲ度(通常以下の身体活動《平地を歩くなど》で疲労・動悸・息切れ・胸の痛みが起こる。安静にしているときは症状がない)に入り始めたくらいのところで見逃してしまうと、突然死の危険が出てきます。ですから、抗がん剤治療を受けている患者さんで心臓の不調があれば、早い段階で検査を受けて必要な治療を受けることが重要です。
ただそれ以前に、抗がん剤治療を開始する前に心臓の状態をしっかり評価していれば、ある程度の予測は可能です。しかし、がん治療に当たる医師はがんの専門家がほとんどなので、どうしてもがんを重視して、心臓は後回しになってしまう傾向が強いといえます。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」