上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「心筋保護」は心臓手術の25%を占めるといえるほど重要な要素

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 昨年10月に問題視されたMICS(ミックス)と呼ばれる小切開手術における“死亡事故”では、心筋保護液の投与に問題があったと指摘されています。心筋保護のトラブルというのは、いわゆる「見込み運転」で起こる場合が最悪のケースです。「いつものようにやっているから問題ないだろう」と、外科医本人の経験だけを妄信して、機器による客観的な確認をおろそかにしていると、大きな落とし穴にはまってしまうのです。

 心臓保護液がきちんと血管を通って心筋まで送られているか、届いていない箇所はないか、逆流が起こっていないか……たとえば処置の最中に血管の中に空気が入ってしまった場合、そこから先には血液や心筋保護液は流れていきません。そうしたトラブルを常に監視することが求められます。それくらい心臓手術における心筋保護は重要です。

 先ほどお話ししたように、心筋保護液は状況を見ながら一定時間ごとに再注入します。投与の間隔はガイドラインなどで決められてはいませんが、私が執刀する手術では、静脈側からおよそ40分ごとに1回、動脈側から60分ごとに1回の間隔で投与しています。患者さんの状態によって変わりますが、これがベースになっています。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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