昨年10月に問題視されたMICS(ミックス)と呼ばれる小切開手術における“死亡事故”では、心筋保護液の投与に問題があったと指摘されています。心筋保護のトラブルというのは、いわゆる「見込み運転」で起こる場合が最悪のケースです。「いつものようにやっているから問題ないだろう」と、外科医本人の経験だけを妄信して、機器による客観的な確認をおろそかにしていると、大きな落とし穴にはまってしまうのです。
心臓保護液がきちんと血管を通って心筋まで送られているか、届いていない箇所はないか、逆流が起こっていないか……たとえば処置の最中に血管の中に空気が入ってしまった場合、そこから先には血液や心筋保護液は流れていきません。そうしたトラブルを常に監視することが求められます。それくらい心臓手術における心筋保護は重要です。
先ほどお話ししたように、心筋保護液は状況を見ながら一定時間ごとに再注入します。投与の間隔はガイドラインなどで決められてはいませんが、私が執刀する手術では、静脈側からおよそ40分ごとに1回、動脈側から60分ごとに1回の間隔で投与しています。患者さんの状態によって変わりますが、これがベースになっています。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」