上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「心筋保護液」はさまざまな試行錯誤の末に確立された

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 もうひとつ、心筋保護液として広く使われているのが「GIK液」です。含まれている成分のグルコース、インスリン、カリウムの頭文字をとって名付けられたもので、安価なうえに施設内での調製もそれほど難しくないため、1980年代くらいまでは日本でもGIK液を主体として使っている施設が多くありました。

■血液を混ぜる方法も

 1990年代に入ってもさらに試行錯誤は続きます。心筋保護液を使えば心筋細胞の代謝はある程度は落ちるものの、無酸素の状態が続くため心筋のダメージが残りやすいのではないかといった考えから、心臓を冷却する最適な温度が模索されます。4度から20度前後まで試され、さらに心臓を停止させている時間は1時間30分くらいまでは安全で3時間を超えると危険になる、その間の時間は個人差が大きいといったようなさまざまな学説が出てきました。

3 / 6 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事