がんと向き合い生きていく

かつての同僚が胃がんに…医者は自分の専門分野で亡くなることもある

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 事務係の方と共に初期研修医の教育、研修状況を報告してもらって、帰路につきました。

 病院に滞在していたおよそ1時間のうち、30分くらいK先生と2人だけになりましたが、個人的な話はしませんでした。先に耳にした話では、K先生は2カ月前に胃がん手術で開腹したものの肝臓転移がひどく、そのまま閉じたといいます。K先生自身はすべてを知っているけれど、絶対に秘密ということになっているらしいのです。

 K先生は私に何か言いたげに感じましたが、そのことには触れませんでした。私は知らないことになっています。彼から言い出さない限り、私は話せません。どう治療して、どう勤務されているのか……分からないことだらけでしたが、仕方がないのです。心の中で「がんばれよ。お大事にな」と思いながら、そのまま別れました。

■半年後に訃報を聞いた

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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