帰りの電車で、「K先生はもともと太っていたが、あのお腹の膨らみは、まさか腹水によるものだろうか……」とも考えました。気のせいか、何か寂しい気がしました。抗がん剤治療しかないだろうに、その言葉さえ出せませんでした。
病院から帰る際、K先生は玄関まで送ってくれました。別れてから思いました。
「あの体で、満員電車に乗って通勤しているのだろうか? たしか、自宅からは1時間以上かかるはず。厳格な彼は、きっと、朝早く出勤しているのだろう。手術には入っているのだろうか……。そういえば、昔から汗っかきだった」
K先生とは、その時に会ったのが最後となりました。半年後、彼の訃報を聞いたのでした。
K先生には、本当に長い間、お世話になりました。上司に対して遠慮なく、自分の意見を進言できる方でした。彼は、真面目で、細かいところにも目が行き届き、厳格とは言いすぎかもしれませんが、意見を曲げることはありませんでした。その点で、彼の下についた医師はその厳格さに大変な苦労をした、という話を何回も聞いたことがあります。でも、患者をお願いするのには、全幅の信頼がおける方でした。
がんと向き合い生きていく