医療だけでは幸せになれない

「検定」の危うさと「推定」のあいまいさ…医者も理解しているとは限らない

コロナ5種移行で、マスク着用は個人の判断に(C)日刊ゲンダイ

 さらに言えば、医学論文を日常的に読んでいる医者であっても、その読みが統計学の誤用であることが多い。

 ありがちなのは、統計学的な検定結果をそのまま臨床的な有効性であるとの読み方をしてしまうことである。論文全体を読むことなく、「統計学的に有意な効果があった」「統計学的に有意な効果はなかった」との結論部分だけをうのみにしてしまうのである。

 1つ例を挙げるならば、これまで取り上げてきたデンマークのランダム化比較試験の結果を、「危険率が38%で5%より大きいのでマスクの効果はない」と判断してしまうことである。逆にこの論文が示す危険率が5%より小さければ「マスクは有効だ」と判断してしまうのも同様な間違いである。

■「統計学的な有意差」と「臨床的な有効性」は別物

 そもそも危険率から「効果あり/なし」の判断をするのは、統計学的にも簡単なことではない。

2 / 4 ページ

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

関連記事