医療だけでは幸せになれない

「検定」の危うさと「推定」のあいまいさ…医者も理解しているとは限らない

コロナ5種移行で、マスク着用は個人の判断に(C)日刊ゲンダイ

 危険率は、マスクを着けるよう勧める行為が、勧めない場合に対して、「まぐれで効果ありとなる確率」と考えればよいと前回説明した。

 そもそも、まぐれで効果ありとなった可能性が5%より小さければ、まぐれではなく真に有効とするのも、実は伝統的、習慣的に決まっているにすぎない。危険率5%、つまり20回に1回の偶然は許容しようというのは、極めてあいまいな基準で、もっと緩くする基準を利用することも可能だし、もっと厳しい基準を採用することも可能である。そこに科学的に明確な基準はないのである。

 重要なことは、危険率から「有効/有効でない」という、はっきりとした判断をする統計学的検定には大きな問題があるということである。そこで最近は「危険率による検定」ではなく、「信頼区間による推定」を用いようとする大きな流れがある。結果のあいまいさをあいまいなままに理解しようという方向である。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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